1 香りは古くから薫香料や医薬品に使われており、世界中でもさまざまな歴史や文化があります。 ヨーロッパは日本と異なり、医療行為や民間療法に積極的に取り入れられているのです。 例えばイギリスは美容やリラクゼーションを目的としているため、個々の体調に合った精油をブレンドして施術します。 フランスでは医薬品代わりのように扱い、医師や自然療法師が書いた処方箋をもとに、薬剤師がアロマの内服カプセルを調剤することもあります。 ドイツではハイルプラクティカーと呼ばれる自然療法師が、様々な植物療法を組合せて治療を行うため医師と同じ職種として位置付けられているのです。 日本のメディカルアロマセラピーは、病気の予防や治療、症状の軽減などを図っています。 エッセンシャルオイルには多くの薬理作用があり、施術方法も吸入や内服、効果的なマッサージなどがありますが常に補完的です。 そこで、抗不安作用、鎮静作用、抗うつ作用などのストレス軽減について効果検証が行われました。 使用するオイルは真正ラベンダー・マジョラム・サイプレス、被験者にはアロママッサージと足浴を行い、採血など様々な測定を行います。 その結果、心理的・免疫学的に有意な効果があり、アロマセラピーマッサージがストレス軽減作用や不安感軽減作用があるとわかったのです。 メディカルアロマセラピーは統合医療の中でも期待される治療法の1つであり、医療施設や介護施設で成果も上がっています。 それに伴い、今後メディカルアロマセラピーの科学的根拠がより求められると言えます。 2 香 りが 自律 神 経 系 に及ぼす影 響(吉田 聡子、 佐伯 由香 日本看護研究学会雑誌 Vo1 23, No 4, 2000)では、Lavender、Rosemary、Citronellaの 3つの精油を用いて、吸入 した際身体にどのような作用をもたらすのか、特に自律神経機能への作用について検討している。Lavenderの香りは、交感神経系を抑え、精神 ・心理面だけでなく身体的にもリラックス効果をもたらした。Rosemaryの精神・心理的にリフレッシュした気分を感じさせる香りは、その作用によって一過性に交感神経系を刺激する効果を持っていることが考えられた。Citronellaの香りは、精神 ・心理面にも被験者間でばらつきがあり、自律神経系への効果も複雑であることがわかっている。 看護領域で芳香療法を用いる場合、精油自体の持つ生理的作用と個人の嗜好とを考慮し選 択する必要性のあることが考えられた。 精神負荷に対するグレープフルーツの香りの効果(村松 仁、森 千鶴、永澤悦伸、福澤 等) 山梨医大紀要 第17巻,42~47, 2000)では、精神的ストレスがある状態 でグレープフルーツの香りを提示した場合,どのような影響が起こるのかを実験により検証している。 その結果,グレープフルーツの香りには,心理指標において状態不安を軽減し,リラックスと覚醒度の上昇を示す可能性があることが示唆された。これは、リラクゼーションに応用できる可能性があることが考えられ、精神科看護においても活用できると考えられる。 本件では心理評定、脳波、被験者の感想をリラックスの指標としているが、リラックスの指標には自律神経系や内分泌系の評価も重要な項目であるため、今回の実験の結果から導き出されたことはあくまで一方向から見た結果であるとしている。 2.1 ストレスと香り((株)資生堂ビューティーサイエンス研究所 小泉祐貴子 日本機械学会 バイオエンジニアリング部門報 No.26 Summer, 1998.7.15)では、ホルモンの1つであるコルチゾルを指標としたストレスの計測、および香りがストレスに及ぼす影響について紹介している。香りの生理心理的効果、心身ともに自然治癒力を高める事例が紹介されており、嗅覚には未知の可能性が潜んでおり、ストレス状況下での香りの様々な効果を探索することで心身を豊かにする科学の分野が期待できることがわかる。 3 うつ症状に、非常に効果的な方法の一つに「マインドフルネス瞑想」があります。マインドフルネス瞑想とは、マインドフルネスセンター創設所長の、ジョン・かバット・ジンによると、「注意集中力」を高めるためのトレーニングを体系的に組み立てたものであり、アジアの仏教にルーツをもつ瞑想の一つの形式を基本としています。 うつ症状ですが、そもそもうつになる遺伝子は存在せず、何百もの異なる遺伝子が組合わさり、うつ症状を引き起こします。そして、これらの遺伝子には、2つのメカニズムが備わっています。 ひとつ目は、免疫活性化メカニズムです。 もうひとつは、感染症や怪我のリスクから逃げようとするメカニズムです。これが、うつ症状と強い関係性があります。このメカニズムが働いているとき、脳は「感情」を使って、その人間をリスクのある状況から離そうとします。例えば、ひどく落ち込ませ、家に引きこもらせるといった具合です。こうすることで、その人間が感染症にかかったり、怪我をするのを防ぐことができます。 それでは、リスクのある状況とは一体いつかというと、ストレス下にある、とりわけ、ロングストレス状態にあるときです。ロングストレスとは、『超ストレス解消法』の著者鈴木祐氏によると、ストレスのなかで、最も重症かつ長期間抱え込む種類のものです。人類の歴史のうち、大半を狩猟採集生活をしていた人間の脳は、現代のデジタル化した社会には対応していません。そのため、日々、膨大な量の情報に触れ、強いロングストレスを感じています。そのような背景から、現代ではうつ症状が増えているといわれています。 それでは、マインドフルネス瞑想が、うつ症状改善するのいかに役立つかについて、マサチューセッツ総合病院と、ドイツのギーセン大学によって行われたある実験をご紹介します。 これは、16人の被験者を対象に、ストレス解消を目的とし、8週間マインドフルネス瞑想を行った実験です。実験前後には、MRI 画像を撮影し、17人のマインドフルネス瞑想を行っていない被験者のものと比較しました。 実験結果によると、マインドフルネス瞑想を行った被験者の、脳の左海馬にある灰白質と呼ばれる部位の容積が、大幅に増加していることがわかりました。この部位は、記憶、学習、感情制御などに関係しており、ストレスを受けると萎縮してしまいます。そのため、16人の被験者のその容積が増大していることから、ストレス度の低下、またそれに伴ううつ症状の予防に、マインドフルネス瞑想が効果的であることが分かります。 また、ストレスに過剰に反応する扁桃体の灰白質の容積は、減少していることも実証されました。